2022.12.13.日本産科婦人科学会に意見を提出しました

活動報告

精子提供卵子提供代理懐胎が、特定生殖補助医療というカテゴリーで、近く法規制の対象になる見込みです。

※ 2023.6.6.時点で、この法案の「タタキ」(→リンク先)を、日本産科婦人科学会のページ(→リンク先)から閲覧できます。

この新規立法により、これまで人工授精しか認められていなかった提供精子による治療が、体外受精もできるようになるなど、当事者の悲願達成に向けて前進がみられます。

しかし同時に、この法案が成立すると、多大な不利益を受ける当事者が現れます。

私たちは、ただでさえ孤立しがちな当事者の分断を望みません。

ふぁみいろネットワークは、現時点での法案の問題点を整理したうえで、下記の提案を日本産科婦人科学会に提出しました。

法案の問題点

(1)一部の患者が排除される

この法案は、特定生殖補助医療を受けられる対象者を、婚姻関係にある夫婦に限定しています。

同性婚が許されていない今の日本において、同性のカップルが法的婚姻関係を結べないことを理由に、この医療を受ける権利を奪われてよいはずありません。

結婚しないことを選んだ女性や、事実婚の男女カップルについても同様です。

また、たとえ婚姻していたとしても、女性が「高齢」であった場合に、この医療から排除される可能性があります

「高齢」かどうかの線引きについて、当事者が納得できる説明は得られるのでしょうか。

国内での治療を受けられないときに、従来ならば国内のクリニックで事前の検査などのバックアップを受けながら、海外渡航して治療を受ける選択肢がありました。

しかし、国内での精子提供や卵子提供の合法的な形が厳密に決められてしまうと、国内でのバックアップを担当してくれるクリニックが、今以上に見つけにくくなる可能性が高いです。

国内治療からも、海外治療からも、締め出される患者が出てしまう。

誰がこの医療を受けられて誰は違法であるという区別は、万人に認められるはずの生殖の権利を侵害しているうえ、当事者の分断を助長します。

私たちは法的婚姻状態や年齢を理由とする差別に抵抗します。


(2)生まれた子が出自を知る権利が保障されていない

この法案では、精子や卵子の提供者情報を100年間保存し、子が成人して情報開示を請求した際に、提供者が同意した場合にのみ、情報が開示される予定です。

子どもは18年間、自分の出自を知ることができるのかできないのか、不安なまま過ごすことになります。

このことは、精子提供や卵子提供で生まれた子どもが出自を知る権利を、明らかに脅かしています。

家庭内で出自の告知を行う予定の親たちは、子どもが成人してアイデンティティの形成を終えてしまう前に、確実な情報をに基づいて告知を行いたいと願っています。

ドナー情報の開示や非開示の範囲については、提供の時点でドナーさん自身が決定し、その範囲の情報が将来確実に開示される制度設計が必要です。

また、ドナーさんの人となりを知る助けになる情報のうち、個人の特定に繋がらない内容(提供の理由や、得意なことなど)については、子どもが生まれたらすぐに開示請求ができるようにするべきと考えます。


(3)卵子提供が存続の危機

新しい法律では、卵子提供に伴う謝礼の支払いが違法になります。

ドナーさんを金銭を媒介とする生殖の手段にしないという理念と、医療の非商業主義という建前があるからです。

卵子提供では、ドナーさんの心と体に大きな負担が伴います。お薬によるリスクがあるほか、生活制限も課されます。それだけの負担をお引き受け頂きことに対し、謝礼ができないことは、あまりにもドナーさんに酷すぎます。

謝金を禁止することで、国内での卵子提供は実質的に手の届かない医療になる可能性が高いです。

社会通念に照らして妥当な範囲と考えうる金額の謝金については、この制度の存続ために、許容されるべきと考えます。


ふぁみいろの提言

ふぁみいろネットワークは、日本産科婦人科学会臨床倫理監理委員会シンポジウム「精子・卵子・胚の提供等による⽣殖補助医療についてー議論すべき課題の抽出ー」(2023.1.15実施予定)に、以下の提言(抄録)を提出しました。


私たちは、精子提供や卵子提供の恩恵を受けて家族形成を行なった親側の当事者と社会科学研究者から構成される任意団体として、以下の3点を要望いたします。

(1)特定生殖補助医療の適応範囲の柔軟な運用

新法の成立により、この医療を必要とする者の一部が、その医学的・社会的背景(年齢や法的婚姻状態など)を理由に、医療へのアクセスを閉ざされる懸念があります。医療の適応の判断に際しては、法による一律の規制ではなく、個別事例ごとの担当医の裁量や認定施設内倫理委員会等の判断が最大限に尊重されるべきです。なお、法規制の結果、国内での治療機会から排除された患者が海外渡航による医療ツーリズム等を利用せざるをえない場合、必要な事前検査・処方等を国内で受ける権利まで奪われることがないよう、日本産科婦人科学会の適切な配慮を強く求めます。

(2)生まれる子の最善の利益の保護

この医療で生まれる子の最善の利益のために、子の出自を知る権利が保証されるべきであり、提供者情報の開示にまつわる不確実性は極力取り除く必要があります。将来的な情報開示の範囲(非開示の選択肢を含む)は、提供者が提供時点で決定し、被提供者がその範囲を踏まえて早期から子への告知を実施できるよう制度設計するべきです。このとき、子が成人して開示請求を行った際には、提供者自身が予め同意した範囲の全て情報が、その時点の提供者の状況に関わらず、確実に開示されることを保証してください。なお、親が子に出自の告知を行う際の手助けとなる提供者情報のうち、個人の特定に直結しないもの(提供理由や得意分野等)については、子が出生後の任意の時点で、子または親からの開示請求に応じて、原則開示してください。

(3)卵子提供の持続可能性の担保

卵子の提供には、身体的・心理的負担と生活上の制限が伴います。提供者がこれらの負担を引き受けることに対し、金銭面での補償(社会通念的に許容される範囲内の謝金の授受)を行うことは、医療の非商業主義と両立します。卵子提供者の身体に対する金銭を媒介とした搾取の防止は、提供の無償化ではない別の方法(提供者のカウンセリング等)によって実現されるべきです。金銭的補償の禁止は、提供者数の抑制につながり、卵子提供は実質的に国内でアクセス不能な医療となりかねません。卵子提供が持続的に実施可能となる制度の設計を強く望みます。