ソーシャル・ジャスティス基金2024ー2025年度助成報告

活動報告

ふぁみいろネットワークは、精子提供・卵子提供・代理懐胎など、第三者が関わる生殖技術を利用して家族形成を行う当事者の声を起点に、生殖をめぐる社会的公正のあり方を考える活動を行ってきました。

これらの技術は、日本において法制度が十分に整備されないまま利用が広がってきた一方で、親、生まれる子ども、ドナー、代理懐胎者それぞれの権利が対立的に語られやすく、当事者の経験は社会的議論の周縁に置かれてきました。

本助成事業では、こうした状況を踏まえ、当事者の経験を可視化し、社会との対話を重ねるため、ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)の2024-2025年度の助成を受けて、以下の4つの事業に取り組みました。

(A)当事者手記の編纂・出版

クリックで本のサンプルページを閲覧できます。

精子提供・卵子提供・代理懐胎によって家族形成を行った当事者やドナーに呼びかけ、手記の募集・編集を行いました。

当初の想定を大きく上回る21名の方からの寄稿があり、当事者の声を補完する研究者のコラムを加えた書籍『Our Stories〜精子提供・卵子提供・代理懐胎で親やドナーになった人達の物語』として刊行することができました。上記の表紙画像のクリックで、本のサンプルページを閲覧できます。

手記の寄稿者の背景は、不妊症、LGBTQ、選択的シングル、代理懐胎の依頼経験者、卵子ドナーなど多岐にわたります。手記集では、それぞれが抱える葛藤や迷い、倫理的な問いが率直に綴られています。編集にあたっては、執筆者の意図を尊重しつつ、なるべく多くの人にとって安全な表現となるよう、丁寧な対話を重ねました。

この書籍は、当事者のエンパワメントにとどまらず、政策提言や社会的議論の場で手渡すことのできる「具体的な声」としての役割も担っています。

(B)教材の作成・公開

当事者手記から浮かび上がった論点に加え、生まれる子ども、ドナー、代理懐胎者の人権に関する国内外の学術研究を整理し、教材を作成しました。

教材はWeb上で無償公開するとともに、紙媒体としても活用可能な形とし、当事者が信頼できる情報にアクセスできる環境づくりを目指しました。上記の表紙画像のクリックで全文を閲覧できます。

これらの教材により、当事者が孤立したまま判断を迫られる状況を和らげるとともに、生殖技術の課題を個人の選択の問題としてではなく、社会全体で引き受けるべき構造的課題として考える視点を共有することができました。

(C)当事者向け対話型ワークショップ

編集段階の手記や教材を用いて、当事者同士が対話するワークショップを実施しました。参加者は、自身の経験を語るだけでなく、他者の語りに耳を傾けながら、子どもやドナーの人権、望ましい制度のあり方について考えを深めていきました。

これらのワークショップで寄せられた意見やフィードバックは、書籍や教材の内容にも反映され、当事者の経験が一方向的に「発信される」ものではなく、相互作用の中で更新されていくプロセスが生まれました。

(D)一般向け対話型ワークショップ

大学生や一般市民を対象に、出張授業やアドボカシーカフェを実施しました。

大学での出張授業は計4回実現しました。事前に手記を読んだうえで執筆者と対話する企画では、家族や生殖をめぐる固定観念を問い直し、単純な賛否や善悪に回収されない議論の場をひらくことができました。

また、2025年12月には、手記集の刊行を記念する対面のワークショップを実施し、当事者だけでなく、この問題に関心をもつ一般市民の皆様を交えた対話が実現しました。参加者からは、「家族を作りたい・子供達を幸せに育ててあげたい気持ちに、”普通”という枠組みなんてあり得ないんだ、と気付かされました(一般市民)」といった声が寄せられ、社会的対話の可能性を実感する機会となりました。

終わりに

本事業は、容易な結論を提示することを目的とするものではありません。

精子提供・卵子提供・代理懐胎をめぐる問いは、「誰がどのように親になるのか」という問題にとどまらず、「私たちはどのような社会として子どもを迎えたいのか」という根源的な問いへとつながっています。

葛藤や緊張を含んだままでも対話を諦めず、希望を持ち続けようとする一人ひとりの粘り強さこそが、社会的公正を支える土台になると、私たちは考えています。

今後も当事者の声を起点に、対話と実践を積み重ねていきます。

最後に、本事業をご支援くださったソーシャル・ジャスティス基金の皆さまに厚くお礼を申し上げます。