ふぁみいろネットワークは、2025年2月5日に参議院に提出された議員立法「特定生殖補助医療法案」について、下記の重大な危惧を抱いています。
- 現法案では、子どもの出自を知る権利が十分に担保されていません。
- 同性カップル・選択的シングル・事実婚の人などに対し、法的婚姻状態に無いことを理由に治療を禁止することは、違憲の疑いがあります。
- 国外犯規定を含む厳重な刑事則を設けることは過剰です。
私たちは、2025年1月9日〜1月21日にかけて、すまいる親の会有志、一般社団法人AID当事者支援会、安全な生殖医療を望む女性の会との4団体の連名で、「特定生殖補助医療法案への意見書 兼 質問書」および「特定生殖補助医療法案についてのFAQ」を8政党に提出(⇨前記事)いたしました。
これに対し、れいわ新撰組、社会民主党、国民民主党、公明党、共産党から回答を得られましたので、共有いたします(掲載は回答の到着順)。
今後の投票行動の参考になさってください。
なお、国民民主党と公明党からの回答は、「生殖補助医療の在り方を考える議員連盟」の公式回答と同一とのことです。
自由民主党、立憲民主党、日本維新の会、参政党からは、2025年3月14日の時点でご回答をいただいておりません。
※当サイト掲載時に、回答の中の重要事項をハイライトしました。太字は回答原文における強調です。
【1】出自を知る権利について
【質問1】現法案では、子どもの出自を知る権利が十分に担保されておらず、特定生殖補助医療法の当初の目的が達成されていないのではないか?
れいわ新撰組
その通りと考えますし、ご要望の3点に関しましても全く同意見です。
れいわ新選組は特定生殖補助医療法案に反対しております。
その理由の1つが、生まれてくる子どもの出自を知る権利が十分ではないことです。
スウェーデンでは1984年に、イギリスなどでも2000年代に個人を特定できる情報開示に踏み切っており、日本でも2003年4月の厚生科学審議会生殖補助医療部会の報告で「生まれた子は、提供者を特定できる個人情報まで知ることができる」とされています。2014年にはAIDで生まれた当事者が実名で生殖補助医療を実施した慶応大学病院に提供者の情報開示を文書で求めています。
こうした経緯を考えても、当事者が切実に自分の出自(遺伝的親の情報)を知る権利を求めていることに応えられていません。
れいわ新選組等の要望に応え、修正案において附則でその範囲について5年後の検討が何とか追加されましたが、20年以上前の議論にも追い付いておらず、このままでは反対です。
社会民主党
現法案に基づく特定生殖補助医療によって出生した子どもが開示できるドナー情報について、身長・血液型・年齢等ドナー提供者の個人が特定されない情報のみであり、子どもが出自を知る権利を十分に保障できておりません。
また、これらの情報を子どもが知ることができるのは子どもが成人してからであり、さらにはドナー提供者の同意も必要です。
子どもの「出自を知る権利」は、日本も批准している子どもの権利条約7条に明記されています。
現法案の趣旨でも「出生した子が自らの出自に関する情報を知ることに資する制度」としていますが、現法案の内容では目的を達成しているとは考えられません。
議連、国民民主党、公明党
議連にて4年以上に渡り議論され、その結果に基づいて制度設計されたもの。附則に検討事項が盛り込まれており、まずは法案を成立させて、さらなる検討を期待したい。
1 本法案は、こどもの「出自を知る権利」に関する制度を初めて法制化するものであり、その在り方については、超党派議連において様々な議論がなされ、その議論の結果に基づいて制度設計がされたところ。
2 本法案においては、提供型特定生殖補助医療により出生した子が、①その出生の事実について公的な機関(国立成育医療研究センター)で確認できることとしたほか、②精子・卵子のドナーの個人を特定しない一定の情報については請求により必ず入手できることとし、さらに、③同センターを通じたドナーとのやり取りの中で、子が必要とする情報の提供をドナーに対して求めることができる等の制度を設けた。
3 ご意見の点に関しては、本法案附則第2条第2項に検討条項を設けており、今後も継続的に検討していく。
【参考】○特定生殖補助医療に関する法律(案) 附 則 (検討) 第二条 〔略〕 2 特定生殖補助医療により出生した子が自らの出自に関する情報を知ることに資する制度の在り方については、当該子の福祉を踏まえ、精子又は卵子の提供に係る状況を考慮しつつ、この法律の公布後五年を目途として検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。 3・4 〔略〕 |
共産党
同法案は問題が多く、到底賛成することはできないと考えています。ご質問に対する私たちの考えは以下のとおりです。
本法律案は、第1条で特定生殖補助医療の適正な実施を確保すること、特定生殖補助医療により生まれた子が自らの出自に関する情報を知ることに資する制度を定めることをその趣旨としています。ところがご指摘の通り、本法立案では、生まれてきた子どもが成人するまでドナーに関する情報を知ることができず、得られる情報も「身長」、「血液型」、「年齢」等に限定されており、出自を知る権利を保障するものとはいえません。AIDの当事者の方たちが訴える「アイデンティティの回復」を保障するものではありません。
【2】婚姻外の治療の禁止
【質問2】同性カップルや選択的シングルの人々について、法的婚姻状態にないことを理由に特定生殖補助医療から排除することは違憲の疑いがないか?
れいわ新撰組
回答の前提として、れいわ新選組は同性婚の法制化、事実婚と法律婚との制度的差別をなくすことに賛成であり、性的マイノリティ、事実婚に市民権・社会保障制度等における同等の権利を保障すべきと考えています。
その上で、生殖補助医療の対象を事実婚・LGBTカップルに拡大することは、親子関係に関わる法律が未整備であり、様々なトラブルが想定されます。(精子提供者が子の認知をする可能性を排除できない。民法特例法では産んだ女性が母親と規定される等)。
従って、生まれてくる子どもの法的安定性や個人としての尊重が十分に担保できる前提が整っっていない現時点で対象拡大には賛成できません。
生殖医療にかかわる民法特例法改正で整理が必要と考えます。
また、代理懐胎・出産を必要とする生殖補助医療(男性カップル、トランスジェンダーの人が生物学的に男性の場合)は禁止すべきと考えます。
その理由は、第3者の女性の身体を利用する代理懐胎・出産は、たとえ無償であっても、身体的・精神的負担と健康リスク、生まれてくる子の福祉の観点からも望ましくないと考えます。
有償であれば、ビジネス化し、世界中の貧困女性が巻き込まれる貧困ビジネスをはびこらせることになり、容認できません。
また、れいわ新選組が本法案に反対している2つ目の理由として、そもそもこの法案が必要となった、2020年成立の「生殖補助医療に関する民法特例法」の中で指摘された、優生思想(基本理念にある「心身ともに健やかに生まれかつ育つ」の部分が障害や難病・遺伝性疾患にたいする差別を助長する)に対する懸念に何も応えていないことが挙げられます。
生殖補助医療が生命の発生にかかわる技術であり、生命の選別・操作が可能であるがゆえに、再生医療・ゲノム編集などの生命操作にかかわる技術を含めて、その倫理的側面、優生思想の排除について、障害や遺伝病をもつ当事者を含めた検討の場を設けるべきと議連で提案しつづけてきましたが、スルーされたままです。
生殖補助医療の提供体制と個人情報の取り扱いという技術的な論点に終始し、生命倫理的な観点には触れずに早期に法律制定したいという推進側の思惑が感じられます。
こうした提言自体は、日弁連、日本産科婦人科学会も行っておりますし、朝日新聞の社説(2024年9月11日)などでも、取り上げられております。
そうした準備もなく、生殖補助医療の対象を拡大していくことには反対です。
社会民主党
特定生殖補助医療を法的に婚姻関係のある夫婦のみにしか認めない現行法案は、「幸福追求権」を保障する憲法13条や法の下の平等を定めた憲法14条1項に反すると考えます。
議連、国民民主党、公明党
2020年に成立した生殖補助医療法において定めた、第三者の精子・卵を用いて出生した子との親子関係は法律婚を対象としており、法律婚以外のカップルにおいては、精子提供者が認知されうることになる。また、日本産科婦人科学会もこれまで法律婚に限り、特定生殖補助医療の実施を認めてきた背景があり、まずは法案を成立させて、さらなる検討を期待する。
1 特定生殖補助医療を受けることができる者の範囲については、超党派議連において議論がなされたが、事実婚男女や同性カップル、選択的シングルも対象とすることについて、各党の合意に至らなかったところ。
2 また、法律婚夫婦については、第三者の精子又は卵子を用いる特定生殖補助医療により子をもうけた場合、令和2年の生殖補助医療法及び民法により、子の出生の段階で、夫婦と当該子の間における、法的な母子関係も法的な父子関係も確定する。
このように、法律婚夫婦については、第三者の精子又は卵子を用いる特定生殖補助医療により子をもうけた場合の親子関係に関する法整備がなされている。
3 一方、事実婚男女を対象とした場合には、例えば、第三者の提供精子による場合、
① 子の出生の段階において、子を分娩した女性との法的な母子関係しか確定しないこと
② (事実婚男女の男性は、出生した子と遺伝的なつながりがなく、認知ができないため、)子の出生の段階において、法的な父が存在しないことから、当該子は、父から監護・養育・扶養を受けたり、財産を相続したりすることが法律上保障されていないこと
③ ドナーによる認知・ドナーに対する強制認知のおそれがあること
など、法的な親子関係の定立・出生した子の法的地位の安定性の観点からも、課題がある。
4 事実婚の男女カップルであってもこうした課題が存在するところ、同様に、同性カップルや選択的シングルを対象とすることについても、様々な課題が存在することから、更なる検討が必要である。
5 なお、日本産科婦人科学会の会告においても、提供精子を用いた人工授精は、法律婚夫婦にのみ認められているところ。
6 以上から、まずは、法律婚夫婦に限定することとした。
7 ご意見の点に関しては、本法案附則第2条第1項に検討条項を設けており、今後も継続的に検討していく。
【参考】○特定生殖補助医療に関する法律(案) 附 則 (検討) 第二条 特定生殖補助医療を受けることができる者の範囲については、特定生殖補助医療により生まれる子の福祉を踏まえ、特定生殖補助医療により子をもうけることを希望する者が置かれている状況に鑑み、この法律の公布後五年を目途として検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。 2~4 〔略〕 |
共産党
法の適用範囲を法律婚夫婦に限定していることは、法律婚以外のカップルを差別的に取り扱うものであり、問題があります。
【3】国外犯規定
【質問3】国外犯規定を含む厳重な刑事則を設けることは過剰ではないか?
れいわ新撰組
本法案の罰則規定(71条、73条)に関して、生殖補助医療は生命の誕生、人の尊厳に直接係わる医療技術であるため、商業主義と学齢等で提供される生殖細胞が選別される優生思想を排するために、規制は必要と考えております。
ご指摘の「刑法の兼抑制」に関しては過度な商業主義を抑制する目的との比較衡量になろうかと存じますが、商業主義の排除と人間の尊厳にかかわること自体は,平成12年12月に出された厚生科学審議会先端医療技術評価部会生殖補助医療技術に関する専門委員会の「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療のあり方についての報告書」でも「基本的な考え」の1つに挙げられた重要な観点であり、一貫して重視されてきた点です。
また、法文全体の中で「何人も」をという広い対象を設定した規制と国外犯規定も66条(精子・卵子及び胚の提供、代理懐胎に係る利益教授の禁止)、67条(精子・卵子及び胚の提供、代理懐胎のあっせんに係る利益教授の禁止)に限られており、商業主義の排除という重要な問題であるために,これに限って特に強い規制を設けたものと理解しています。
したがって、これを規制するとすれば,やはり刑罰を持って制限する以外に手段はないのではないかと考えます。
次に71条2項の国外犯規定に関して、現地(海外)では合法的に代理懐胎・出産、あるいは対価を支払って生殖補助医療を受けて子どもを設けても、日本に帰国した場合、厳密には刑罰の対象となるが、国によって法制度が大きく異なる中、国外犯規定を設けることが妥当かどうか、というご質問について。
れいわ新選組は、代理懐胎・出産も対価を払っての生殖補助医療を受けることも、前述のように人の身体を利用した貧困ビジネスがはびこることになるため反対であり、国内外を問わず規制は必要と考えています。
しかし、海外では合法な代理懐胎・出産、対価を払っての生殖補助医療によって生まれた子どもが「犯罪になるべき行為によって生まれた子ども」という烙印を押されることは、婚外子差別と同様、あってはならないことと考えます。
一方で、諸外国でも,必ずしも対価を払って良いとする理解がされているわけではなく,そのような形にならない費用負担の範囲をどう規律し明確にするか,神経を配りながら実施されてきているように思います。
本法案でも,第66条・67条4項は,通常の費用が対価としての利益供与に該当しない規定となっています。むしろ,この範囲の峻別を,ガイドライン等で明確にすることが重要と考えます。
なお、刑罰に処するには捜査機関による立証が必要となり、海外で生まれた子の出生の経緯について(当事者の子どもへの情報開示は必要ですが)、捜査機関がわざわざ介入することは通常ないと考えられます。(だからと言って、海外で生殖補助医療を受けることを推奨しているわけではありません。)
社会民主党
特定生殖補助医療の対象者を法的婚姻関係のある夫婦以外を排除するどころか、罰則規定まで設けることは慎重に検討するべきだと考えます。
また、法的婚姻関係が無い家庭で既に出生している子どもたちや、現行法案の成立後に同様の家庭で出生した子どもたちが、自分たちは法的に認められていない状態で生まれた存在だと罪の意識を負わせることにもなりかねません。
刑事罰を設けることは慎重に検討するべきだと考えます。
議連、国民民主党、公明党
海外で有償による精子・卵・杯の売買を認めると、法律の実効性が損なわれる。
1 財産上の利益の授受の禁止に係る罰則について
特定生殖補助医療に用いられる精子、卵子及び胚を経済取引の対象とすることは、人となり得るものであるこれらを商品化する行為であり、これは人々の道徳感情を著しく害するといえる。
また、精子、卵子及び胚が商品として取り扱われることは、価格を付けることを通じてこれらに優劣を付けることにつながり、ひいては優生思想を助長し得る。
したがって、このような観点から、商業主義的な取扱いを排除する必要がある。
さらに、提供型特定生殖補助医療に用いられる精子や卵子の提供・そのあっせんの公正性を確保し、提供型特定生殖補助医療に係る制度の適正な実施を確保する観点からも、特定生殖補助医療に用いられる精子、卵子及び胚が経済取引の対象とされないようにする必要がある。
以上のような保護法益の重要性に鑑み、特定生殖補助医療に用いられるための精子、卵子及び胚の提供等並びにそのあっせんに係る利益の授受を禁止し、違反に対して罰則を設けている。
2 国外犯について
日本人が海外に渡って、精子や卵子の売り買いや、有償で精子や卵子のあっせんを受けること等が可能であっては、本法案で設けた規制の実効性が確保されなくなってしまう。
そこで、特定生殖補助医療に用いられるための精子、卵子及び胚の提供等並びにそのあっせんに係る利益の授受の禁止に違反する行為については、日本国民の国外犯を処罰する規定を設けている。
共産党
不必要な刑事罰を設けることは過剰であると考えます。
このように、本法律案は問題が多く、到底賛成することはできません。今後も、当事者の皆さんのご意見、ご要望を踏まえ、引き続き尽力していきます。
《資料》各党の回答



